「アルプスの少女ハイジ」は、だれもが一度は見たことのある作品でしょう。そしてその作品のなかで出てくる「スイスのチーズ」に憧れた経験のある人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、このようにして多くの人の憧れの的となった「スイスのチーズ」を取り上げ、
・スイスのチーズの歴史
・スイスのチーズ事情と、その特徴
・スイスのチーズ7種類
について解説していきます。
世紀にはすでに「スイスチーズ」についての記述がある
スイスのチーズの歴史は非常に古いものです。歴史上で初めて「スイスのチーズ」が取り上げられたいのは1世紀のことで、ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウスとも)の著わした書にこれの記載があります。
そこでは、「カゼウス・ヘルヴェティクス(ヘルベチア人のチーズ)として、スイスのチーズが取り上げられています。
なお、「ヘルベチア人」とは、この時期にスイスに住んでいた人のことを指す言葉です。
ただし、これはあくまで「スイスのチーズが初めて歴史に記されたとき」の話です。
当然、「歴史に記される前」の段階からスイスのチーズは作られていたと見るべきですから、スイスのチーズの歴史はもっと古いものとなるでしょう。
スイスの中世の時代においては、「自分で作り出したものを、自分で消費する」という自給自足の生活が営まれていたとされています。
自給自足率は100パーセントに等しく、人々は生きるためにチーズを作り続けていました。
そしてそのような生活のなかで、数多くの「名物チーズ」が生み出されるようになったのです。
現在では流通網も発達しましたが、それでもこの時代に作られた数多くのチーズは、今でもなおスイスの名産品として世界各国で愛されています。
スイスのチーズ事情とその特徴~「チーズアイ」って何のこと?
スイスのチーズの歴史を知ったところで、ここからは、
・スイスのチーズの消費量
・スイスのチーズの種類と、利用方法
・スイスのチーズが大きい理由
・チーズアイとは何か
について解説していきます。
スイスのチーズ消費量は、世界で8位
物語の印象が強いからか、「スイスでは、非常に多くのチーズが食べられている」と考えている人も多いかと思われます。
もちろんこの感覚は、間違いではありません。1年間の1人あたりのチーズの消費量を見たとき、スイスのそれは日本の約10倍であることが分かっています。
ただ、スイスに住む人が1年間で食べるチーズの量は、平均して21.8キロだとされています。
これは世界で第8位の数字です。スイスよりもよくチーズを消費する国として、フランスやドイツ、イタリアなどが挙げられます。
また、実はスイスのチーズの消費量は、アイスランドやルクセンブルクよりもずっと下です。
ちなみに、スイスでよく食べられているチーズとしては、チーズアイのある「エメンタール」が挙げられます(※「チーズアイ」「エメンタール」については後述します)。
CNETランスのチーズ消費量は日本の10倍以上――トリップグラフィックス」内トリップアドバイザー「世界のチーズ消費量」
https://japan.cnet.com/article/35067230/
スイスのチーズの種類と、その利用方法について
スイスのチーズの種類は非常に多いのですが、そのほとんどはセミハード・ハードチーズに分類されるものです。
もちろんそれ以外のものも作られてはいますし、スイスのフレッシュチーズはスイスのチーズ史を語るときにもしばしば登場します。
しかし現在の日本で、「スイスのチーズ」を探そうとすると、そのほとんどはセミハード・ハードチーズになるでしょう。
チーズ愛好家のなかでも、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは食べたことがない」という人は決して少なくはありません。特に、スイスの青カビチーズは日本の市場ではまずみられません。
これは、ほかの「チーズ大国」であるイタリアやフランスとは、大きく異なる点です。
さて、スイスではチーズを非常によく料理に使います。
後述しますが、チーズの名前そのものが料理の名前ともなっている「ラクレット」は、切ったチーズの表面をあぶって、ジャガイモなどと合わせる料理です。
また、日本でも非常になじみ深いチーズ料理である「チーズ・フォンデュ(チーズフォンデュとも。ここでは『チーズ・フォンデュ』の表記に統一)も、スイスで生まれました。
ちなみにこのチーズ・フォンデュが広まるきっかけとなった理由は、「軍隊」にあります。それまでも親しまれてきた料理ではありましたが、1950年代にスイスの軍隊の調理の本に採用されてから、世界各国に広まっていったのです。
多くのハードチーズ・セミハードチーズを作り出すスイス~なぜこれらは大きいの?
現在の日本で売られているスイスのチーズは、そのほぼすべてがカットされた状態になっています。そのためあまり「切り分けられていないチーズの状態」を意識することはないでしょう。
しかし、当然のことながら、チーズには「切り分けられる前の状態」が存在します。
スイスのチーズは、この「切り分けられる前の状態」が非常に大きいことで知られています。
たとえばグリュイエールの場合は、直径60センチ程度、重さは25キロ~30キロ程度もあります。
特に大きいのが「エメンタール」であり、直径は80センチ~100センチ、重さは100キロを超えるものもあります。
スイスでは昔から、夏の間中牛を牧草地で暮らさせていました。
そのため、多くの牛乳を得ることができました。この「得られる牛乳の量」が大きかったため、スイスのチーズは巨大化していったと考えられています。
スイスで作られるチーズによくみられる「チーズアイ」、この意味とは
「トムとジェリー」を一度でも見たことのある人は、「穴のあいたチーズ」を記憶していることでしょう。
チーズを簡略化して書こうとするときにほぼ必ず描写されるこのチーズの穴は、「チーズアイ」といわれます。
実はこのチーズアイは、スイスのチーズ以外にはほとんどみられません。
チーズアイは、スイスのチーズをスイスチーズたらしめている理由のうちのひとつなのです。
このチーズアイができる理由は、かつては「二酸化炭素によるものだ」とされていました。
スイスチーズに咥えられた最近が二酸化炭素を生み出し、それによってチーズアイができるとされていたのです。
ただ現在は、「手で牛の乳を搾ったときに混じる干し草の小さな破片によって、チーズアイができているのではないか」とする説も出てきています。
これを裏付けるものとして、「昔ながらの手絞り製法で作ったチーズはチーズアイが大きく、現代的な搾乳機で絞った乳から作られるチーズはチーズアイが小さい」という統計があります。
いずれにせよ、この「チーズアイ」は非常に特徴的なものです。
カットされるとわかりにくくなってしまいますが、スイスのチーズを購入するときには注意深く見てみるとよいでしょう。
スイスのチーズを知ろう!スイスチーズの種類を7つご紹介
このような特徴を踏まえたうえで、実際に販売されているスイスのチーズについてみていきましょう。
①エメンタール(セミハード・ハードチーズ)
上記で紹介した「チーズアイ」を持っているチーズの筆頭が、この「エメンタール」です。「チーズの王様」と称されるチーズはいくつかありますが、エメンタールもまたそのような呼称を持つトーズのうちのひとつです。
チーズのなかには、そのチーズが作られた土地・村の名前を冠したものがいくつもあります。
カマンベール・ド・ノルマンディーがその代表例ですが、エメンタールもまた、生まれ故郷である「エメンタール地方」から名付けられました。
スイスには長い歴史を持つチーズがたくさんあります。エメンタールもそのうちの1つで、13世紀から作られています。
100キロを超える大型になることも珍しくないエメンタールは、実に1000リットルもの牛乳によって作られています。
ナッツ類に似た香ばしさを感じさせるチーズであり、若干のほろ苦さも持っています。スイス生まれのほかのセミハード・ハードチーズ同様、食べやすいことがエメンタールの魅力です。
チーズアイといい、その歴史の長さといい、エメンタールはスイスのチーズの筆頭ともいえるものです。スイスのチーズを楽しみたいのであれば、まずはこのエメンタールから挑戦してみるとよいでしょう。
②グリュイエール(セミハード・ハードチーズ)
グリュイエールもまた、エメンタール同様非常に有名なスイスチーズです。エメンタールが「チーズの王様」と言われるのに対し、グリュイエールは「チーズの女王様」と称えられています。
グリュイエールの歴史の始まりは、12世紀とも17世紀ともいわれています。
現在のグリュイエールのようなチーズはすでに12世紀に作られていましたが、グリュイエールが「グリュイエール」と名付けられるまでには500年の月日が必要でした。
17世紀に入って、ほかの国と取引をするときに、生まれ故郷であるグリュイエールの名前を付けて「グリュイエール(チーズ)」と呼ばれるようになったのです。
ちなみに、かつてのフランスでは、ハードチーズ全般を指して「グリュイエール」と呼んでいたのだとか。
塩水を使って熟成させていくグリュイエールは、エメンタールよりもやや湿度の高い表皮に覆われています。
ミルクの味わいや塩味を感じさせるチーズではありますが、それよりも「コクの強さ」「ナッツのような香り」に惹かれる人が多いと思われます。
グリュイエールは、もっとも有名なチーズ料理のひとつである「チーズ・フォンデュ」に使用されているチーズです。
ちなみにチーズ・フォンデュは、もともとは「固くなってしまったパンを処理するときの料理」としての扱いだったのだとか。
チーズ・フォンデュは家でも簡単に作れるものですが、グリュイエールだけで作ろうとするとこげついてしまいます。
そのため、牛乳や白ワインで伸ばすようにしてください。
③ラクレット・デュ・ヴァレ
さて、スイスのチーズを語るうえでは「アルプスの少女ハイジ」はやはり欠かせません。
これは1880年~1881年にスイス人の作家ヨハンナ・シュピリによって著わされました。
この作品の解釈は国によって異なるものではありますが、それでも、この作品に出てきたおいしそうなチーズ料理に惹かれた人は非常に多いのではないでしょうか。
この作品に出てくるチーズが、この「ラクレット・デュ・ヴァレである」とよく言われていました(ただし、公式サイドではチーズの品種自体は設定していないそうです)。
ラクレット・デュ・ヴァレは、チーズの名前を冠した料理まであるほどの非常に有名なチーズです。
ちなみにこの「ラクレット」という料理はスイスの代表的な家庭料理ですが、フランスのサヴォワ地方でもみられるそうです。
このあたりは、国境が地続きであるヨーロッパならではだといえるのかもしれません。
そのまま食べてもおいしいチーズですが、ラクレット・デュ・ヴァレが本領を発揮するのは、やはり「過熱して食べる」というやり方をとったときです。
ラクレット・デュ・ヴァレの場合、加熱することで香りが抑えられるようになるので、チーズ初心者さんでも食べやすくなるでしょう。
④テッド・デ・モアンヌ(セミハード・ハードチーズ)
ユニークな個性を持つ「テッド・デ・モアンヌ」は、一般家庭ではあまり食べられないものかもしれません。
これは、「ジロール」と呼ばれる専用の機会を用いて、チーズの表面を花びら状態に削って食べるものだからです。
ジロールは安いものでも4000円近くしますから、テッド・デ・モアンヌのためだけにこれを導入する人は少ないかと思われます。
ただし、チーズスライサーを使えば、家でもテッド・デ・モアンヌを楽しめるようになります。
チーズスライサーは1000円前後で買えるうえ、テッド・デ・モアンヌ以外のチーズにも使えます。
そのため、テッド・デ・モアンヌを家で気軽に楽しみたいのであれば、ジロールではなくチーズスライサーを求めるとよいでしょう。
12世紀に修道院で作られていたテッド・デ・モアンヌは、やがて農民にもその製法が伝えられます。なお、いわゆる「年貢」「税金」として、このテッド・デ・モアンヌが納められていたという記録が残っています。
スライサーやジロールで削りだしたテッド・デ・モアンヌは、口の中で軽やかに溶けていきます。
この食感がテッド・デ・モアンヌの大きな魅力ですが、味わいもよく、セミハード・ハードチーズらしい濃厚なうまみを持ちます。甘味も持っているため、非常に食べやすいチーズだといえます。
⑤エティヴァ(セミハード・ハードチーズ)
スイスには、エメンタールとグリュイエール、ラクレットの三大巨頭に加えて、その形の面白さで知られるテッド・デ・モアンヌがあります。
そのため、それ以外のセミハード・ハードチーズはこれらの影に隠れがちです。
しかし実際には、この4つ以外にも優れたチーズがあります。そのうちのひとつが、「エティヴァ」です。
エティヴァは、「レティヴァ」と記されることもあります(ここでは「エティヴァ」の表記に統一します)。
スイスの「山のチーズ」の製法を守り続けて作られているチーズであり、スイスのAOC(原産地管理呼称。食材などに与えられる規格・認証制度のこと)チーズ第1号を獲得したチーズでもあります。
グリュイエールとは異なる製法をしていますが、グリュイエール同様、スイスのチーズ界において非常に重要な意味を持つチーズだといえます。
子牛から取った酵素を使い、マキと銅の鍋を使って作られるエティヴァは、伝統的な製法で作られるチーズとして広く愛されてきました。
エティヴァは、その輝かしい歴史とは対照的に、非常に知名度が低いチーズでもあります。
それはエティヴァが、伝統的な製法を守り続けているために生産量を多くすることができないからです。なかなか珍しいチーズなので、見かけたら購入してみることをおすすめします。
わずかなスモーク香をまとうチーズであり、比較的柔らかめに仕上げられています。
酸味はあるものの穏やかで、うまみとコクの方が強く感じられるでしょう。わずかな塩味が入るため、食べ飽きないチーズでもあります。
⑥ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア(セミハード・ハードチーズ)
「ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア」は、セミハードチーズに分類されるものであり、むちむちとした弾力を持つものです。その特性から、チーズ・フォンデュにも利用されます。
「スイスのハードチーズはちょっと硬すぎる」という人は、このヴァシュラン フリブルジョワ エピセアを試してみるとよいでしょう。
ヴァシュラン フリブルジョワ エピセアは比較的塩味が強く、エピセア(マツ科)の香りが楽しめるチーズです。
セミハード・ハードチーズに共通した深いうまみとコクを持ちます。そのため、赤ワインとよくマッチします。
「いつものスイスのセミハード・ハードチーズ」に飽きた人はぜひ試してみてください。
⑦ゾレット(白カビ)
上でも述べてきたように、スイスのチーズ事情はイタリアやフランスのそれとは異なります。日本で購入できるスイスのチーズのほとんどは、セミハード・ハードチーズです。
しかし、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは、まったく出回っていないのか?」というとそういうわけではありません。
たとえば、ここで取り上げる「ゾレット」は白カビチーズに分類されています。スイスのヴォー州で作られている白カビチーズであり、絞ったばかりの無殺菌乳を使って作られたものです。
標高1000メートルのチーズ工場で作られるこのゾレットは、非常に強い木の香りを感じさせます。
この木の香りは、スイスの針葉樹の香りであるとされています。
非常にクリーミーで、口の中に長くとどまり続けるのが特徴です。また、口の中にしばらく置いておくと、味が徐々に変化していきます。
ゾレットは、リースリングを使った白ワインなどとよく合うでしょう。
店頭売りで手に入れようとすると非常に難易度が高くなってしまうチーズではありますが、ネット通販などを使えば比較的簡単に手に入ります。
スイスのチーズは、「おいしい!」という舌の喜びだけでなく、「子どものころに見たアニメのなかに出てきた料理(食材)を食べられる」という楽しさを与えてくれるものです。
チーズアイなどを目で味わいながら、スイスのチーズを食べてみてくださいね。
「アルプスの少女ハイジ」は、だれもが一度は見たことのある作品でしょう。そしてその作品のなかで出てくる「スイスのチーズ」に憧れた経験のある人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、このようにして多くの人の憧れの的となった「スイスのチーズ」を取り上げ、
・スイスのチーズの歴史
・スイスのチーズ事情と、その特徴
・スイスのチーズ7種類
について解説していきます。
世紀にはすでに「スイスチーズ」についての記述がある
スイスのチーズの歴史は非常に古いものです。歴史上で初めて「スイスのチーズ」が取り上げられたいのは1世紀のことで、ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウスとも)の著わした書にこれの記載があります。
そこでは、「カゼウス・ヘルヴェティクス(ヘルベチア人のチーズ)として、スイスのチーズが取り上げられています。
なお、「ヘルベチア人」とは、この時期にスイスに住んでいた人のことを指す言葉です。
ただし、これはあくまで「スイスのチーズが初めて歴史に記されたとき」の話です。
当然、「歴史に記される前」の段階からスイスのチーズは作られていたと見るべきですから、スイスのチーズの歴史はもっと古いものとなるでしょう。
スイスの中世の時代においては、「自分で作り出したものを、自分で消費する」という自給自足の生活が営まれていたとされています。
自給自足率は100パーセントに等しく、人々は生きるためにチーズを作り続けていました。
そしてそのような生活のなかで、数多くの「名物チーズ」が生み出されるようになったのです。
現在では流通網も発達しましたが、それでもこの時代に作られた数多くのチーズは、今でもなおスイスの名産品として世界各国で愛されています。
スイスのチーズ事情とその特徴~「チーズアイ」って何のこと?
スイスのチーズの歴史を知ったところで、ここからは、
・スイスのチーズの消費量
・スイスのチーズの種類と、利用方法
・スイスのチーズが大きい理由
・チーズアイとは何か
について解説していきます。
スイスのチーズ消費量は、世界で8位
物語の印象が強いからか、「スイスでは、非常に多くのチーズが食べられている」と考えている人も多いかと思われます。
もちろんこの感覚は、間違いではありません。1年間の1人あたりのチーズの消費量を見たとき、スイスのそれは日本の約10倍であることが分かっています。
ただ、スイスに住む人が1年間で食べるチーズの量は、平均して21.8キロだとされています。
これは世界で第8位の数字です。スイスよりもよくチーズを消費する国として、フランスやドイツ、イタリアなどが挙げられます。
また、実はスイスのチーズの消費量は、アイスランドやルクセンブルクよりもずっと下です。
ちなみに、スイスでよく食べられているチーズとしては、チーズアイのある「エメンタール」が挙げられます(※「チーズアイ」「エメンタール」については後述します)。
CNETランスのチーズ消費量は日本の10倍以上――トリップグラフィックス」内トリップアドバイザー「世界のチーズ消費量」
https://japan.cnet.com/article/35067230/
スイスのチーズの種類と、その利用方法について
スイスのチーズの種類は非常に多いのですが、そのほとんどはセミハード・ハードチーズに分類されるものです。
もちろんそれ以外のものも作られてはいますし、スイスのフレッシュチーズはスイスのチーズ史を語るときにもしばしば登場します。
しかし現在の日本で、「スイスのチーズ」を探そうとすると、そのほとんどはセミハード・ハードチーズになるでしょう。
チーズ愛好家のなかでも、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは食べたことがない」という人は決して少なくはありません。特に、スイスの青カビチーズは日本の市場ではまずみられません。
これは、ほかの「チーズ大国」であるイタリアやフランスとは、大きく異なる点です。
さて、スイスではチーズを非常によく料理に使います。
後述しますが、チーズの名前そのものが料理の名前ともなっている「ラクレット」は、切ったチーズの表面をあぶって、ジャガイモなどと合わせる料理です。
また、日本でも非常になじみ深いチーズ料理である「チーズ・フォンデュ(チーズフォンデュとも。ここでは『チーズ・フォンデュ』の表記に統一)も、スイスで生まれました。
ちなみにこのチーズ・フォンデュが広まるきっかけとなった理由は、「軍隊」にあります。それまでも親しまれてきた料理ではありましたが、1950年代にスイスの軍隊の調理の本に採用されてから、世界各国に広まっていったのです。
多くのハードチーズ・セミハードチーズを作り出すスイス~なぜこれらは大きいの?
現在の日本で売られているスイスのチーズは、そのほぼすべてがカットされた状態になっています。そのためあまり「切り分けられていないチーズの状態」を意識することはないでしょう。
しかし、当然のことながら、チーズには「切り分けられる前の状態」が存在します。
スイスのチーズは、この「切り分けられる前の状態」が非常に大きいことで知られています。
たとえばグリュイエールの場合は、直径60センチ程度、重さは25キロ~30キロ程度もあります。
特に大きいのが「エメンタール」であり、直径は80センチ~100センチ、重さは100キロを超えるものもあります。
スイスでは昔から、夏の間中牛を牧草地で暮らさせていました。
そのため、多くの牛乳を得ることができました。この「得られる牛乳の量」が大きかったため、スイスのチーズは巨大化していったと考えられています。
スイスで作られるチーズによくみられる「チーズアイ」、この意味とは
「トムとジェリー」を一度でも見たことのある人は、「穴のあいたチーズ」を記憶していることでしょう。
チーズを簡略化して書こうとするときにほぼ必ず描写されるこのチーズの穴は、「チーズアイ」といわれます。
実はこのチーズアイは、スイスのチーズ以外にはほとんどみられません。
チーズアイは、スイスのチーズをスイスチーズたらしめている理由のうちのひとつなのです。
このチーズアイができる理由は、かつては「二酸化炭素によるものだ」とされていました。
スイスチーズに咥えられた最近が二酸化炭素を生み出し、それによってチーズアイができるとされていたのです。
ただ現在は、「手で牛の乳を搾ったときに混じる干し草の小さな破片によって、チーズアイができているのではないか」とする説も出てきています。
これを裏付けるものとして、「昔ながらの手絞り製法で作ったチーズはチーズアイが大きく、現代的な搾乳機で絞った乳から作られるチーズはチーズアイが小さい」という統計があります。
いずれにせよ、この「チーズアイ」は非常に特徴的なものです。
カットされるとわかりにくくなってしまいますが、スイスのチーズを購入するときには注意深く見てみるとよいでしょう。
スイスのチーズを知ろう!スイスチーズの種類を7つご紹介
このような特徴を踏まえたうえで、実際に販売されているスイスのチーズについてみていきましょう。
①エメンタール(セミハード・ハードチーズ)
上記で紹介した「チーズアイ」を持っているチーズの筆頭が、この「エメンタール」です。「チーズの王様」と称されるチーズはいくつかありますが、エメンタールもまたそのような呼称を持つトーズのうちのひとつです。
チーズのなかには、そのチーズが作られた土地・村の名前を冠したものがいくつもあります。
カマンベール・ド・ノルマンディーがその代表例ですが、エメンタールもまた、生まれ故郷である「エメンタール地方」から名付けられました。
スイスには長い歴史を持つチーズがたくさんあります。エメンタールもそのうちの1つで、13世紀から作られています。
100キロを超える大型になることも珍しくないエメンタールは、実に1000リットルもの牛乳によって作られています。
ナッツ類に似た香ばしさを感じさせるチーズであり、若干のほろ苦さも持っています。スイス生まれのほかのセミハード・ハードチーズ同様、食べやすいことがエメンタールの魅力です。
チーズアイといい、その歴史の長さといい、エメンタールはスイスのチーズの筆頭ともいえるものです。スイスのチーズを楽しみたいのであれば、まずはこのエメンタールから挑戦してみるとよいでしょう。
②グリュイエール(セミハード・ハードチーズ)
グリュイエールもまた、エメンタール同様非常に有名なスイスチーズです。エメンタールが「チーズの王様」と言われるのに対し、グリュイエールは「チーズの女王様」と称えられています。
グリュイエールの歴史の始まりは、12世紀とも17世紀ともいわれています。
現在のグリュイエールのようなチーズはすでに12世紀に作られていましたが、グリュイエールが「グリュイエール」と名付けられるまでには500年の月日が必要でした。
17世紀に入って、ほかの国と取引をするときに、生まれ故郷であるグリュイエールの名前を付けて「グリュイエール(チーズ)」と呼ばれるようになったのです。
ちなみに、かつてのフランスでは、ハードチーズ全般を指して「グリュイエール」と呼んでいたのだとか。
塩水を使って熟成させていくグリュイエールは、エメンタールよりもやや湿度の高い表皮に覆われています。
ミルクの味わいや塩味を感じさせるチーズではありますが、それよりも「コクの強さ」「ナッツのような香り」に惹かれる人が多いと思われます。
グリュイエールは、もっとも有名なチーズ料理のひとつである「チーズ・フォンデュ」に使用されているチーズです。
ちなみにチーズ・フォンデュは、もともとは「固くなってしまったパンを処理するときの料理」としての扱いだったのだとか。
チーズ・フォンデュは家でも簡単に作れるものですが、グリュイエールだけで作ろうとするとこげついてしまいます。
そのため、牛乳や白ワインで伸ばすようにしてください。
③ラクレット・デュ・ヴァレ
さて、スイスのチーズを語るうえでは「アルプスの少女ハイジ」はやはり欠かせません。
これは1880年~1881年にスイス人の作家ヨハンナ・シュピリによって著わされました。
この作品の解釈は国によって異なるものではありますが、それでも、この作品に出てきたおいしそうなチーズ料理に惹かれた人は非常に多いのではないでしょうか。
この作品に出てくるチーズが、この「ラクレット・デュ・ヴァレである」とよく言われていました(ただし、公式サイドではチーズの品種自体は設定していないそうです)。
ラクレット・デュ・ヴァレは、チーズの名前を冠した料理まであるほどの非常に有名なチーズです。
ちなみにこの「ラクレット」という料理はスイスの代表的な家庭料理ですが、フランスのサヴォワ地方でもみられるそうです。
このあたりは、国境が地続きであるヨーロッパならではだといえるのかもしれません。
そのまま食べてもおいしいチーズですが、ラクレット・デュ・ヴァレが本領を発揮するのは、やはり「過熱して食べる」というやり方をとったときです。
ラクレット・デュ・ヴァレの場合、加熱することで香りが抑えられるようになるので、チーズ初心者さんでも食べやすくなるでしょう。
④テッド・デ・モアンヌ(セミハード・ハードチーズ)
ユニークな個性を持つ「テッド・デ・モアンヌ」は、一般家庭ではあまり食べられないものかもしれません。
これは、「ジロール」と呼ばれる専用の機会を用いて、チーズの表面を花びら状態に削って食べるものだからです。
ジロールは安いものでも4000円近くしますから、テッド・デ・モアンヌのためだけにこれを導入する人は少ないかと思われます。
ただし、チーズスライサーを使えば、家でもテッド・デ・モアンヌを楽しめるようになります。
チーズスライサーは1000円前後で買えるうえ、テッド・デ・モアンヌ以外のチーズにも使えます。
そのため、テッド・デ・モアンヌを家で気軽に楽しみたいのであれば、ジロールではなくチーズスライサーを求めるとよいでしょう。
12世紀に修道院で作られていたテッド・デ・モアンヌは、やがて農民にもその製法が伝えられます。なお、いわゆる「年貢」「税金」として、このテッド・デ・モアンヌが納められていたという記録が残っています。
スライサーやジロールで削りだしたテッド・デ・モアンヌは、口の中で軽やかに溶けていきます。
この食感がテッド・デ・モアンヌの大きな魅力ですが、味わいもよく、セミハード・ハードチーズらしい濃厚なうまみを持ちます。甘味も持っているため、非常に食べやすいチーズだといえます。
⑤エティヴァ(セミハード・ハードチーズ)
スイスには、エメンタールとグリュイエール、ラクレットの三大巨頭に加えて、その形の面白さで知られるテッド・デ・モアンヌがあります。
そのため、それ以外のセミハード・ハードチーズはこれらの影に隠れがちです。
しかし実際には、この4つ以外にも優れたチーズがあります。そのうちのひとつが、「エティヴァ」です。
エティヴァは、「レティヴァ」と記されることもあります(ここでは「エティヴァ」の表記に統一します)。
スイスの「山のチーズ」の製法を守り続けて作られているチーズであり、スイスのAOC(原産地管理呼称。食材などに与えられる規格・認証制度のこと)チーズ第1号を獲得したチーズでもあります。
グリュイエールとは異なる製法をしていますが、グリュイエール同様、スイスのチーズ界において非常に重要な意味を持つチーズだといえます。
子牛から取った酵素を使い、マキと銅の鍋を使って作られるエティヴァは、伝統的な製法で作られるチーズとして広く愛されてきました。
エティヴァは、その輝かしい歴史とは対照的に、非常に知名度が低いチーズでもあります。
それはエティヴァが、伝統的な製法を守り続けているために生産量を多くすることができないからです。なかなか珍しいチーズなので、見かけたら購入してみることをおすすめします。
わずかなスモーク香をまとうチーズであり、比較的柔らかめに仕上げられています。
酸味はあるものの穏やかで、うまみとコクの方が強く感じられるでしょう。わずかな塩味が入るため、食べ飽きないチーズでもあります。
⑥ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア(セミハード・ハードチーズ)
「ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア」は、セミハードチーズに分類されるものであり、むちむちとした弾力を持つものです。その特性から、チーズ・フォンデュにも利用されます。
「スイスのハードチーズはちょっと硬すぎる」という人は、このヴァシュラン フリブルジョワ エピセアを試してみるとよいでしょう。
ヴァシュラン フリブルジョワ エピセアは比較的塩味が強く、エピセア(マツ科)の香りが楽しめるチーズです。
セミハード・ハードチーズに共通した深いうまみとコクを持ちます。そのため、赤ワインとよくマッチします。
「いつものスイスのセミハード・ハードチーズ」に飽きた人はぜひ試してみてください。
⑦ゾレット(白カビ)
上でも述べてきたように、スイスのチーズ事情はイタリアやフランスのそれとは異なります。日本で購入できるスイスのチーズのほとんどは、セミハード・ハードチーズです。
しかし、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは、まったく出回っていないのか?」というとそういうわけではありません。
たとえば、ここで取り上げる「ゾレット」は白カビチーズに分類されています。スイスのヴォー州で作られている白カビチーズであり、絞ったばかりの無殺菌乳を使って作られたものです。
標高1000メートルのチーズ工場で作られるこのゾレットは、非常に強い木の香りを感じさせます。
この木の香りは、スイスの針葉樹の香りであるとされています。
非常にクリーミーで、口の中に長くとどまり続けるのが特徴です。また、口の中にしばらく置いておくと、味が徐々に変化していきます。
ゾレットは、リースリングを使った白ワインなどとよく合うでしょう。
店頭売りで手に入れようとすると非常に難易度が高くなってしまうチーズではありますが、ネット通販などを使えば比較的簡単に手に入ります。
スイスのチーズは、「おいしい!」という舌の喜びだけでなく、「子どものころに見たアニメのなかに出てきた料理(食材)を食べられる」という楽しさを与えてくれるものです。
チーズアイなどを目で味わいながら、スイスのチーズを食べてみてくださいね。
「アルプスの少女ハイジ」は、だれもが一度は見たことのある作品でしょう。そしてその作品のなかで出てくる「スイスのチーズ」に憧れた経験のある人も少なくないのではないでしょうか。
今回は、このようにして多くの人の憧れの的となった「スイスのチーズ」を取り上げ、
・スイスのチーズの歴史
・スイスのチーズ事情と、その特徴
・スイスのチーズ7種類
について解説していきます。
世紀にはすでに「スイスチーズ」についての記述がある
スイスのチーズの歴史は非常に古いものです。歴史上で初めて「スイスのチーズ」が取り上げられたいのは1世紀のことで、ガイウス・プリニウス・セクンドゥス(大プリニウスとも)の著わした書にこれの記載があります。
そこでは、「カゼウス・ヘルヴェティクス(ヘルベチア人のチーズ)として、スイスのチーズが取り上げられています。
なお、「ヘルベチア人」とは、この時期にスイスに住んでいた人のことを指す言葉です。
ただし、これはあくまで「スイスのチーズが初めて歴史に記されたとき」の話です。
当然、「歴史に記される前」の段階からスイスのチーズは作られていたと見るべきですから、スイスのチーズの歴史はもっと古いものとなるでしょう。
スイスの中世の時代においては、「自分で作り出したものを、自分で消費する」という自給自足の生活が営まれていたとされています。
自給自足率は100パーセントに等しく、人々は生きるためにチーズを作り続けていました。
そしてそのような生活のなかで、数多くの「名物チーズ」が生み出されるようになったのです。
現在では流通網も発達しましたが、それでもこの時代に作られた数多くのチーズは、今でもなおスイスの名産品として世界各国で愛されています。
スイスのチーズ事情とその特徴~「チーズアイ」って何のこと?
スイスのチーズの歴史を知ったところで、ここからは、
・スイスのチーズの消費量
・スイスのチーズの種類と、利用方法
・スイスのチーズが大きい理由
・チーズアイとは何か
について解説していきます。
スイスのチーズ消費量は、世界で8位
物語の印象が強いからか、「スイスでは、非常に多くのチーズが食べられている」と考えている人も多いかと思われます。
もちろんこの感覚は、間違いではありません。1年間の1人あたりのチーズの消費量を見たとき、スイスのそれは日本の約10倍であることが分かっています。
ただ、スイスに住む人が1年間で食べるチーズの量は、平均して21.8キロだとされています。
これは世界で第8位の数字です。スイスよりもよくチーズを消費する国として、フランスやドイツ、イタリアなどが挙げられます。
また、実はスイスのチーズの消費量は、アイスランドやルクセンブルクよりもずっと下です。
ちなみに、スイスでよく食べられているチーズとしては、チーズアイのある「エメンタール」が挙げられます(※「チーズアイ」「エメンタール」については後述します)。
CNETランスのチーズ消費量は日本の10倍以上――トリップグラフィックス」内トリップアドバイザー「世界のチーズ消費量」
https://japan.cnet.com/article/35067230/
スイスのチーズの種類と、その利用方法について
スイスのチーズの種類は非常に多いのですが、そのほとんどはセミハード・ハードチーズに分類されるものです。
もちろんそれ以外のものも作られてはいますし、スイスのフレッシュチーズはスイスのチーズ史を語るときにもしばしば登場します。
しかし現在の日本で、「スイスのチーズ」を探そうとすると、そのほとんどはセミハード・ハードチーズになるでしょう。
チーズ愛好家のなかでも、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは食べたことがない」という人は決して少なくはありません。特に、スイスの青カビチーズは日本の市場ではまずみられません。
これは、ほかの「チーズ大国」であるイタリアやフランスとは、大きく異なる点です。
さて、スイスではチーズを非常によく料理に使います。
後述しますが、チーズの名前そのものが料理の名前ともなっている「ラクレット」は、切ったチーズの表面をあぶって、ジャガイモなどと合わせる料理です。
また、日本でも非常になじみ深いチーズ料理である「チーズ・フォンデュ(チーズフォンデュとも。ここでは『チーズ・フォンデュ』の表記に統一)も、スイスで生まれました。
ちなみにこのチーズ・フォンデュが広まるきっかけとなった理由は、「軍隊」にあります。それまでも親しまれてきた料理ではありましたが、1950年代にスイスの軍隊の調理の本に採用されてから、世界各国に広まっていったのです。
多くのハードチーズ・セミハードチーズを作り出すスイス~なぜこれらは大きいの?
現在の日本で売られているスイスのチーズは、そのほぼすべてがカットされた状態になっています。そのためあまり「切り分けられていないチーズの状態」を意識することはないでしょう。
しかし、当然のことながら、チーズには「切り分けられる前の状態」が存在します。
スイスのチーズは、この「切り分けられる前の状態」が非常に大きいことで知られています。
たとえばグリュイエールの場合は、直径60センチ程度、重さは25キロ~30キロ程度もあります。
特に大きいのが「エメンタール」であり、直径は80センチ~100センチ、重さは100キロを超えるものもあります。
スイスでは昔から、夏の間中牛を牧草地で暮らさせていました。
そのため、多くの牛乳を得ることができました。この「得られる牛乳の量」が大きかったため、スイスのチーズは巨大化していったと考えられています。
スイスで作られるチーズによくみられる「チーズアイ」、この意味とは
「トムとジェリー」を一度でも見たことのある人は、「穴のあいたチーズ」を記憶していることでしょう。
チーズを簡略化して書こうとするときにほぼ必ず描写されるこのチーズの穴は、「チーズアイ」といわれます。
実はこのチーズアイは、スイスのチーズ以外にはほとんどみられません。
チーズアイは、スイスのチーズをスイスチーズたらしめている理由のうちのひとつなのです。
このチーズアイができる理由は、かつては「二酸化炭素によるものだ」とされていました。
スイスチーズに咥えられた最近が二酸化炭素を生み出し、それによってチーズアイができるとされていたのです。
ただ現在は、「手で牛の乳を搾ったときに混じる干し草の小さな破片によって、チーズアイができているのではないか」とする説も出てきています。
これを裏付けるものとして、「昔ながらの手絞り製法で作ったチーズはチーズアイが大きく、現代的な搾乳機で絞った乳から作られるチーズはチーズアイが小さい」という統計があります。
いずれにせよ、この「チーズアイ」は非常に特徴的なものです。
カットされるとわかりにくくなってしまいますが、スイスのチーズを購入するときには注意深く見てみるとよいでしょう。
スイスのチーズを知ろう!スイスチーズの種類を7つご紹介
このような特徴を踏まえたうえで、実際に販売されているスイスのチーズについてみていきましょう。
①エメンタール(セミハード・ハードチーズ)
上記で紹介した「チーズアイ」を持っているチーズの筆頭が、この「エメンタール」です。「チーズの王様」と称されるチーズはいくつかありますが、エメンタールもまたそのような呼称を持つトーズのうちのひとつです。
チーズのなかには、そのチーズが作られた土地・村の名前を冠したものがいくつもあります。
カマンベール・ド・ノルマンディーがその代表例ですが、エメンタールもまた、生まれ故郷である「エメンタール地方」から名付けられました。
スイスには長い歴史を持つチーズがたくさんあります。エメンタールもそのうちの1つで、13世紀から作られています。
100キロを超える大型になることも珍しくないエメンタールは、実に1000リットルもの牛乳によって作られています。
ナッツ類に似た香ばしさを感じさせるチーズであり、若干のほろ苦さも持っています。スイス生まれのほかのセミハード・ハードチーズ同様、食べやすいことがエメンタールの魅力です。
チーズアイといい、その歴史の長さといい、エメンタールはスイスのチーズの筆頭ともいえるものです。スイスのチーズを楽しみたいのであれば、まずはこのエメンタールから挑戦してみるとよいでしょう。
②グリュイエール(セミハード・ハードチーズ)
グリュイエールもまた、エメンタール同様非常に有名なスイスチーズです。エメンタールが「チーズの王様」と言われるのに対し、グリュイエールは「チーズの女王様」と称えられています。
グリュイエールの歴史の始まりは、12世紀とも17世紀ともいわれています。
現在のグリュイエールのようなチーズはすでに12世紀に作られていましたが、グリュイエールが「グリュイエール」と名付けられるまでには500年の月日が必要でした。
17世紀に入って、ほかの国と取引をするときに、生まれ故郷であるグリュイエールの名前を付けて「グリュイエール(チーズ)」と呼ばれるようになったのです。
ちなみに、かつてのフランスでは、ハードチーズ全般を指して「グリュイエール」と呼んでいたのだとか。
塩水を使って熟成させていくグリュイエールは、エメンタールよりもやや湿度の高い表皮に覆われています。
ミルクの味わいや塩味を感じさせるチーズではありますが、それよりも「コクの強さ」「ナッツのような香り」に惹かれる人が多いと思われます。
グリュイエールは、もっとも有名なチーズ料理のひとつである「チーズ・フォンデュ」に使用されているチーズです。
ちなみにチーズ・フォンデュは、もともとは「固くなってしまったパンを処理するときの料理」としての扱いだったのだとか。
チーズ・フォンデュは家でも簡単に作れるものですが、グリュイエールだけで作ろうとするとこげついてしまいます。
そのため、牛乳や白ワインで伸ばすようにしてください。
③ラクレット・デュ・ヴァレ
さて、スイスのチーズを語るうえでは「アルプスの少女ハイジ」はやはり欠かせません。
これは1880年~1881年にスイス人の作家ヨハンナ・シュピリによって著わされました。
この作品の解釈は国によって異なるものではありますが、それでも、この作品に出てきたおいしそうなチーズ料理に惹かれた人は非常に多いのではないでしょうか。
この作品に出てくるチーズが、この「ラクレット・デュ・ヴァレである」とよく言われていました(ただし、公式サイドではチーズの品種自体は設定していないそうです)。
ラクレット・デュ・ヴァレは、チーズの名前を冠した料理まであるほどの非常に有名なチーズです。
ちなみにこの「ラクレット」という料理はスイスの代表的な家庭料理ですが、フランスのサヴォワ地方でもみられるそうです。
このあたりは、国境が地続きであるヨーロッパならではだといえるのかもしれません。
そのまま食べてもおいしいチーズですが、ラクレット・デュ・ヴァレが本領を発揮するのは、やはり「過熱して食べる」というやり方をとったときです。
ラクレット・デュ・ヴァレの場合、加熱することで香りが抑えられるようになるので、チーズ初心者さんでも食べやすくなるでしょう。
④テッド・デ・モアンヌ(セミハード・ハードチーズ)
ユニークな個性を持つ「テッド・デ・モアンヌ」は、一般家庭ではあまり食べられないものかもしれません。
これは、「ジロール」と呼ばれる専用の機会を用いて、チーズの表面を花びら状態に削って食べるものだからです。
ジロールは安いものでも4000円近くしますから、テッド・デ・モアンヌのためだけにこれを導入する人は少ないかと思われます。
ただし、チーズスライサーを使えば、家でもテッド・デ・モアンヌを楽しめるようになります。
チーズスライサーは1000円前後で買えるうえ、テッド・デ・モアンヌ以外のチーズにも使えます。
そのため、テッド・デ・モアンヌを家で気軽に楽しみたいのであれば、ジロールではなくチーズスライサーを求めるとよいでしょう。
12世紀に修道院で作られていたテッド・デ・モアンヌは、やがて農民にもその製法が伝えられます。なお、いわゆる「年貢」「税金」として、このテッド・デ・モアンヌが納められていたという記録が残っています。
スライサーやジロールで削りだしたテッド・デ・モアンヌは、口の中で軽やかに溶けていきます。
この食感がテッド・デ・モアンヌの大きな魅力ですが、味わいもよく、セミハード・ハードチーズらしい濃厚なうまみを持ちます。甘味も持っているため、非常に食べやすいチーズだといえます。
⑤エティヴァ(セミハード・ハードチーズ)
スイスには、エメンタールとグリュイエール、ラクレットの三大巨頭に加えて、その形の面白さで知られるテッド・デ・モアンヌがあります。
そのため、それ以外のセミハード・ハードチーズはこれらの影に隠れがちです。
しかし実際には、この4つ以外にも優れたチーズがあります。そのうちのひとつが、「エティヴァ」です。
エティヴァは、「レティヴァ」と記されることもあります(ここでは「エティヴァ」の表記に統一します)。
スイスの「山のチーズ」の製法を守り続けて作られているチーズであり、スイスのAOC(原産地管理呼称。食材などに与えられる規格・認証制度のこと)チーズ第1号を獲得したチーズでもあります。
グリュイエールとは異なる製法をしていますが、グリュイエール同様、スイスのチーズ界において非常に重要な意味を持つチーズだといえます。
子牛から取った酵素を使い、マキと銅の鍋を使って作られるエティヴァは、伝統的な製法で作られるチーズとして広く愛されてきました。
エティヴァは、その輝かしい歴史とは対照的に、非常に知名度が低いチーズでもあります。
それはエティヴァが、伝統的な製法を守り続けているために生産量を多くすることができないからです。なかなか珍しいチーズなので、見かけたら購入してみることをおすすめします。
わずかなスモーク香をまとうチーズであり、比較的柔らかめに仕上げられています。
酸味はあるものの穏やかで、うまみとコクの方が強く感じられるでしょう。わずかな塩味が入るため、食べ飽きないチーズでもあります。
⑥ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア(セミハード・ハードチーズ)
「ヴァシュラン フリブルジョワ エピセア」は、セミハードチーズに分類されるものであり、むちむちとした弾力を持つものです。その特性から、チーズ・フォンデュにも利用されます。
「スイスのハードチーズはちょっと硬すぎる」という人は、このヴァシュラン フリブルジョワ エピセアを試してみるとよいでしょう。
ヴァシュラン フリブルジョワ エピセアは比較的塩味が強く、エピセア(マツ科)の香りが楽しめるチーズです。
セミハード・ハードチーズに共通した深いうまみとコクを持ちます。そのため、赤ワインとよくマッチします。
「いつものスイスのセミハード・ハードチーズ」に飽きた人はぜひ試してみてください。
⑦ゾレット(白カビ)
上でも述べてきたように、スイスのチーズ事情はイタリアやフランスのそれとは異なります。日本で購入できるスイスのチーズのほとんどは、セミハード・ハードチーズです。
しかし、「セミハード・ハードチーズ以外のスイスのチーズは、まったく出回っていないのか?」というとそういうわけではありません。
たとえば、ここで取り上げる「ゾレット」は白カビチーズに分類されています。スイスのヴォー州で作られている白カビチーズであり、絞ったばかりの無殺菌乳を使って作られたものです。
標高1000メートルのチーズ工場で作られるこのゾレットは、非常に強い木の香りを感じさせます。
この木の香りは、スイスの針葉樹の香りであるとされています。
非常にクリーミーで、口の中に長くとどまり続けるのが特徴です。また、口の中にしばらく置いておくと、味が徐々に変化していきます。
ゾレットは、リースリングを使った白ワインなどとよく合うでしょう。
店頭売りで手に入れようとすると非常に難易度が高くなってしまうチーズではありますが、ネット通販などを使えば比較的簡単に手に入ります。
スイスのチーズは、「おいしい!」という舌の喜びだけでなく、「子どものころに見たアニメのなかに出てきた料理(食材)を食べられる」という楽しさを与えてくれるものです。
チーズアイなどを目で味わいながら、スイスのチーズを食べてみてくださいね。