クセのない味わいで人気の「マリボー」は、「サムソー」と並んでデンマークを代表する、
牛乳製のセミハードタイプチーズです。
マリボーという名前は、デンマークのローランド島(ロラン島)の町に由来した名前だと言われており、
デンマーク産のチーズはヨーロッパのチーズの製法を元にしてつくられているものが多く、「マリボー」もそのひとつです。
「マリボー」はオランダの「ゴーダ」の製法を元につくられていますが、圧縮をしないので生地に弾力があり、中には不定形な穴があります。
加熱するとよく伸び、マイルドな味と香りで料理にも使いやすいチーズです。
デンマークは酪農が盛んな国で、美味しいチーズがたくさんありますが、今回はその中でも人気のある「マリボー」をご紹介します。
リンドレスチーズ「マリボー」
「リンド」(英:rind)とはチーズの皮のことで、内部の組織と違って表面の固くなっている部分を指します。
ハードタイプの場合は、長期間外気に触れさせ定期的にブラッシングをすることで、表面部分の脱水が促され、自然な表皮が形成されます。
皮があることでチーズの形状が維持され、内部の乾燥や雑菌の繁殖を防ぐ効果があり、
ハードタイプ以外のウォッシュタイプや白カビタイプの「表面の内部と違った組織」になっている部分も「リンド」と呼びます。
チーズには外皮があるものが多いですが、中には無いものもあります。
リンドレスチーズ(外皮のないチーズ)で有名な例としてはオランダの「リンドレス・ゴーダ」ですが、
本来の「ゴーダ」は、他のハードタイプのように時間をかけて外皮を形成するのではなく、ワックスでコーティングすることで、ワックスが「外皮」と同じ役割を果たします。
ワックスはわずかに空気を通すので、ワックスと接している面はチーズ内部よりも少し固くなります。
対して「リンドレス・ゴーダ」は自然な表皮はつくらず、カットしたチーズをワックスではなくプラスチックフィルムで覆って真空にすることで水分の蒸発を抑え、熟成が進んでも柔らかさを維持できます。
一切空気を通さないので表面が固くならずに、その分調理や加工がしやすいのも特徴です。
「マリボー」はゴーダと同様に円盤型のものもありますが、四角くカットされ、ワックスではなくプラスチックフィルムを使って真空パックにされた「リンドレス」のものが主流となっています。
生産コストも抑えられるので、ワックスコーティングされたゴーダと比較すると安価に販売されていることが多く、輸送時の利便性を考慮して四角くカットされているのも特徴のひとつです。
マリボーの製造方法
デンマークにはいろいろなチーズがありますが、その多くがヨーロッパのチーズの製造方法を模したつくり方をしています。
マリボーもそのひとつで、オランダの「ゴーダ」の製造方法を模したつくり方でつくられています。
「ゴーダ」の製造方法はいろいろなチーズに応用されており、マイルドな味わいに仕上げるための特徴的な工程があります。
マリボーの製造方法
- 原料乳をあたため、乳酸菌を添加し乳酸醗酵させる。
- 凝乳酵素(レンネット)を加え、原料乳を固める。
- 凝乳をカットする。
- ホエイ(凝乳に含まれる水分)を排出する。
- ぬるま湯を注ぎカード(脱水された凝乳)をお湯で洗う(カード・ウォッシング)
- 型に詰め、自重で形成する
- 加塩・熟成
ゴーダを製造する時の特徴的な工程にカード・ウォッシングという工程があり、
これはマリボーの他にもラクレットなどの弾力がありマイルドな味わいのチーズをつくる時に用いられる製法です。
ゴーダチーズでは、型に詰めた後、プレス機でプレスするのに対し、マリボーはプレスせずに自重で形を整えるので、内部に不規則な孔(チーズアイ)が形成され、より弾力のある食感に仕上がります。
おすすめの食べ方
ハードタイプでクセのない「マリボー」はカットしてそのまま食べるのもおすすめですが、
溶けやすくお料理にも使いやすいチーズですのでぜひお料理にも使ってみてください。
ご家庭で楽しむときの保管のポイントや、おすすめの食べ方をご紹介します。
保存方法
マリボーは、ゴーダのような円盤型のものもあれば、ワックスコーティングではない、
正方形のプラスチックフィルムで真空パックにされて販売されていることが多いチーズです。
開封した後は他のチーズと同様に、乾燥してしまったり、カビがついてしまうことがあるので、
開封後は冷蔵庫で保管し、数日か1週間程度で食べ切ることをおすすめします。
チーズを保管するときのポイント
- 真空パックのナチュラルチーズは空気に触れてはいないが、内部の乳酸菌の働きによって熟成は進んでいくので、購入後はパックのまま冷蔵庫に入れず、一度出してからラップなどで包む。
- 開封後は乾燥しないようチーズ用の包装材、またはラップに包み直し冷蔵庫で保管する。
- 他の食品の香りが移らないようさらに保存容器に入れて保存し、包装材はこまめに取り替える。
- 開封後のチーズは熟成変化をしないので、数日〜1週間程度を目安に食べ切る。
おすすめレシピ
マリボーはシアトル系の有名コーヒーショップでも人気のサンドイッチに使われているチーズで、
食べたことがある方も多いのではないでしょうか。
マリボーはマイルドでクセのない味と香りで、そのまま食べても料理に使っても美味しく食べられるチーズです。
- チーズフォンデュ
ハードタイプのチーズですが、溶けやすい生地でクセがないので他のチーズと合わせても美味しくなります。
何種類かのチーズをあわせてフォンデュにすると、味に複雑さが出ておすすめです。
- トレコンブロートのサンドイッチ
デンマークで伝統的に食べられているパン「トレコンブロート」を使って、野菜やハム、ピクルスと薄くスライスしたマリボーを合わせたサンドイッチ。
「トレコンブロート」は3種の穀物を使ったパンという意味で、表面に胡麻がまぶしてあるパンです。
もちろん他のパンでサンドイッチにしてもマリボーはマッチします。
- スライスマリボーのサラダ
ピーラーやチーズスライサーで薄くスライスしたマリボーをお好みの生野菜と一緒にサラダに。
後味の程よい酸味は野菜との相性がよく、ドレッシングの味を邪魔しません。
まとめ
「デンマーク産チーズ」と言われてもあまりピンとこない方も多いのではないかと思いますが、
デンマークは世界に誇る農業先進国とも言われており、日本とも関係が深い国です。
デンマークは温暖な気候で、春から夏にかけての降水量が多く、肥沃な土壌で古くは農業が盛んな国でした。
今では畜産や乳製品の製造が盛んなデンマークですが、農業から酪農に大転換をしたのは19世紀後半に起こった穀物価格の大暴落がきっかけです。
17世紀に起こった近隣諸国との戦争に負け、残された土地は痩せた土地のみとなり、その後19世紀に穀物価格の大暴落が起こります。
畜産に適した気候を生かし農業から酪農に転換しようと1882年にユトランドの農民グループが協力し、
酪農協同組合を設立します。
協同組合のアイデアはすぐに広まり、1900年には1000件を超える協同組合の酪農場があったと言われていおり、共同組合方式で成功したデンマークの酪農はその後北海道に伝わり、現在の日本の酪農の基礎となっています。
デンマーク産マリボーの主な輸出国は日本で、生産量の約3分の1以上が日本に輸出されており、日本とはとても関係の深いチーズです。 チーズそのものも魅力的で美味しいですが、チーズの背景にあるドラマを知ると、チーズがより美味しく感じられますね。