フランスはチーズ大国・美食大国として知られており、チーズを語るうえで避けては通れない国です。
ただこのフランスと並び称されるほどに有名なチーズ大国が、ヨーロッパには2つあります。
1つがイタリア、そしてもう1つがスイスです。
ここではそのうちの1つである「イタリア」を取り上げ、その歴史とイタリアのチーズの特徴、代表的で個性的なイタリアのチーズの種類について解説していきます。
西欧におけるチーズ史~その祖であるイタリアのチーズの歴史
「チーズを語るならばこの国は外せない! 偉大なるチーズを産み続けるフランスについて」でも紹介しましたが、イタリアは西欧におけるチーズの祖だとされています。
イタリアで生まれたチーズがあったからこそ、フランスのチーズが生まれ、ドイツのチーズが生まれ、スペインのチーズが生まれました。
イタリアでチーズが誕生したのは、紀元前1000年ごろのことだといわれています。ただこの「イタリアで初めて誕生したチーズ」は、イタリアが独自に開発したものではありません。現在のギリシア付近で興っていたギリシア文明(ギリシャ文明とも)を携えたエルトリア人が、イタリアの北部のロンバルディア地方に「チーズ」という文化をもたらしました。
このチーズの伝播により、イタリアでは数多くのチーズが作られるようになります。こんにちでもイタリアを代表するチーズであるパルミジャーノ・レッジャーノやゴルゴンゾーラの原型は、このときにすでに作られていたといわれています。このように生まれてできた「イタリアチーズの原型」はやがて、イタリアに流れるポー川を利用して作られる「モッツァレラ」さえも生み出しました。
なお、イタリア最古のチーズとされているのは、ペコリーノ・ロマーノです。このペコリーノ・ロマーノは南イタリアで生まれていて、今でも長く愛され続けています。
※パルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラ、モッツァレラ、ペコリーノ・ロマーノはすべて、その特性や味わいを記事の後半で紹介します。
イタリアのチーズ事情とその特徴
ここからは、イタリアチーズの特徴と、イタリアのチーズ事情について解説していきます。
意外と食べられていない?! イタリアのチーズ消費量は7位
ヨーロッパでもっとも長いチーズの歴史を持ち、今でも数多くのチーズを生み出しているイタリアは、だれもが知るチーズ大国です。イタリアといえばチーズ、と思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
しかし意外なことに、イタリアのチーズの消費量は、世界的にみると7位の位置にあります。
もっとも多くのチーズを消費している国がフランスであることはイメージしやすいかと思われますが、アイスランドやルクセンブルク、フィンランドなどよりもイタリアのチーズの消費量が少ないことをイメージできる人はそう多くはないのではないでしょうか。
なお、イタリアでのチーズのなかでよく食べられているものとして、「モッツァレラ」が挙げられています。モッツァレラは、イタリアのチーズを語るうえで外せない存在だといえるでしょう。
イタリアのチーズには数多くの種類がある
何を以て「チーズの種類」とするかは、人によって判断が異なります。イタリアのチーズの種類は500種類とも4000種類ともいわれています。そのため、「イタリアのチーズの種類」を正確に導き出そうとすることは、極めて困難です。
ただ、イタリアが非常に多くのチーズを打ち出している事実はだれも否定できないことでしょう。フランス同様、どんなに小さなスーパーであってもチーズのコーナーは設けられていますし、そこには複数種類のチーズが並んでいます。
明確に「イタリアのチーズの種類とその数」を書き出すのは難しいのが現状ではありますが、チーズがイタリアの人々の食卓に深く根付いていることは疑いようもない事実です。
イタリアチーズと料理の話~なぜ、どうして? イタリア料理では「最後のチーズ」が出ない理由
イタリアとフランスは同じ「チーズ大国」ですが、チーズに対するとらえ方には違いもみられます。
その違いがもっとも顕著なのは、「コース料理におけるチーズの扱い方」でしょう。
フランス料理の場合、デザートの前にチーズの選択を提案されるのが一般的な流れです(※断ることもできます)。また、「デザートの代わりにチーズを頼む」というやり方をとることができるレストランもあります。
しかしイタリア料理の場合、コース料理であっても、コースの〆にチーズが提案されることはまったくと言ってもいいほどありません。
これは、「イタリア料理は、チーズを軽んじている」ということとイコールではありません。
むしろイタリア料理の場合、料理の皿にふんだんにチーズを使っています。
たとえばもっともなじみ深いイタリア料理のひとつであるピザには必ずといってもいいほどチーズが使われていますし、パスタにもよく粉チーズがかけられています。
また、魚料理や前菜などにも、チーズがふんだんに使われています。イタリアを代表とするデザートであるティラミスに、マスカルポーネチーズが使われていることはだれもが知るところです。
しかもこのときに使われるチーズは、料理に合わせて、マリボーであったりパルミジャーノ・レッジャーノであったり、ペコリーノ・ロマーノであったり……と、使い分けられています。
このように、イタリア料理ではフランス料理以上に積極的にチーズを料理のなかに組み込みます。この基本があるため、イタリア料理においては「食後のチーズ」を出す必要がないと判断されていると考えられています。
イタリアならではのチーズ「パスタフィラータチーズ」とは
チーズを名産品とする国は数多くありますが、そのうちのひとつであるイタリアは、独自のチーズ製法を確立しました。
それが「パスタフィラータ」です。
このパスタフィラータはチーズのカテゴリー分けを行うときの単語としても使われています。
また、パスタフィラータの製法で作られたチーズを、「パスタフィラータチーズ」と呼びます(ただし、パスタフィラータの製法で作り上げられたチーズも、単純に「パスタフィラータ」とのみ記すこともあります)。
パスタフィラータチーズは、チーズの原材料となるカード(凝乳)を熱いお湯の中で練り上げて作ります。
熱湯の中でチーズは形を変えますし、一般的なチーズが持ち得ない弾力を持ちます。
なお、出来上がったパスタフィラータチーズは繊維状に割くこともできるようになります。
「パスタフィラータチーズ」と言うとイメージしにくいかもしれませんが、私たちがよく目にする「割けるチーズ」「ストリングスチーズ」だと考えると、パスタフィラータチーズがイメージしやすいことでしょう。
イタリアを代表するチーズであるパスタフィラータチーズは、一般的なチーズのカテゴリーである「白カビ」「青カビ」「フレッシュ」「セミハード・セミハード」「シェーブル」「ウォッシュ」から除かれることもあります。
ただ、一部のサイトや書籍などでは、パスタフィラータチーズもチーズの代表的なカテゴリーの1つとして取り扱われています。
出典;
CNETランスのチーズ消費量は日本の10倍以上――トリップグラフィックス」内トリップアドバイザー「世界のチーズ消費量」

イタリアチーズを食べてみよう! 代表的なチーズと特徴的なチーズ7種類
「パスタフィラータチーズ」に代表されるように、イタリアのチーズは非常に豊かな個性を持っています。
ここではイタリアチーズの代表として7つのチーズを挙げて、それぞれの特徴について解説していきます。
マスカルポーネ(フレッシュチーズ)
上でも取り上げましたが、マスカルポーネはティラミスの材料としてよく使われているものです。
なお、まれに「マスカルポーネチーズ」と称されることもありますが、ここでは「マスカルポーネ」の表記に統一します。
泡立てた生クリームにも似た食感を持つフレッシュチーズであり、軽い口当たりとすがすがしい酸味を持つのがマスカルポーネの最大の特徴です。
16世紀~17世紀ごろに来たイタリアのロンバルディアで生まれたチーズであり、冬にだけ作られるものでした。ただ現在は、イタリアの北部一帯で、一年を通して広く作られるようになりました。
ちなみに、マスカルポーネという名前は、“mas que Bueno”、マス・ケ・ブエノというところから来ています。
これはスペイン語で「非常においしい!」という意味です。ロンバルディアで初めてこのチーズを食べたスペイン人の総督がこのように叫んだことから、「マスカルポーネ」と名付けられたと考えられています。
パルミジャーノ・レッジャーノ(ハード・セミハードチーズ)
イタリアのチーズのなかでもっとも知名度の高いチーズといえば、おそらく「パルミジャーノ・レッジャーノ」でしょう。その存在感からしばしば「イタリアチーズの王」とも称されています。
非常にうまみが強いチーズであり、熟成が進むとアミノ酸の結晶をみることができるようになります。このアミノ酸の結晶のシャリシャリとした食感に惹かれて、熟成の進んだものを買い求める人もいます。
北イタリアで生まれたパルミジャーノ・レッジャーノは非常に人気が高いものであったため、さまざまな国で「模造品」が作られました。それを憂慮したパルミジャーノ・レッジャーノ協会は、さまざまな規約と厳しい検査体制を作りました。現在「パルミジャーノ・レッジャーノ」と呼ばれるのは、「2年以上の長い熟成に耐えうるもので、またその長い熟成期間に適すると判断されたもの」だけです。
ちなみにパルミジャーノ・レッジャーノは、30キロもの重さを持つチーズです。そのため、これを食べるためにパルミジャーノ・レッジャーノ専用のナイフも打ち出されるようになりました。ただ現在の日本で手に入るパルミジャーノ・レッジャーノは、家庭でもカットしやすいような大きさで調整されているため、専用ナイフがなくても扱えます。
なお。粉チーズによく使われているチーズは、この「パルミジャーノ・レッジャーノ」です。

モッツァレラ(ここではパスタフィラータチーズに分類)
パルミジャーノ・レッジャーノと並んで非常に有名なのが、「モッツァレラ」です。トマトと合わせて食べる食べ方が広く知られているもいので、牛乳あるいは水牛乳から作られています(現在は牛乳で作られたものが広く流通しています)。
表面はなめらかですが、中は弾力があります。また、熱を加えると非常によく伸びます。優しい酸味と甘みを持ちますが、それほど主張の強いチーズではありません。
なお、モッツァレラは取り上げられるサイトによって、カテゴリー分けが異なります。パスタフィラータトーズに分類されることもありますし、フレッシュチーズとして扱われることもあります。
スカルモルツァ(パスタフィラータチーズ)
モッツァレラはサイトやお店によってカテゴリー分けが異なりますが、スカルモルツァはパスタフィラータチーズに入れられるチーズです。
乳白色の色を持つチーズであり、クセがありません。どこかスモークチーズに似た味わいを持つため、「食べやすいのに、普段のチーズとは異なる味」を味わうことができます。
スカルモルツァはこのままでも食べられるパスタフィラータチーズですが、熱を加えると香りがよくなります。同じようにイタリアを名産地とするトマト、特に焼いたトマトとの相性が良いので、合わせてみるとよいでしょう。また、ハーブ類と合わせて食べてもおいしいものです。
合わせるお酒は、白ワインが基本です。ただ、ビールと合わせてもおいしく食べられるでしょう。
なお日本ではイタリア産のパスタフィラータチーズの入手難易度はかなり高く、マスカルポーネ(※パスタフィラータチーズに分類する場合)以外はなかなか手に入りません。しかしスカルモルツァならばまだ手に入る可能性はあるでしょう。その意味では、スカルモルツァは「非常に貴重な」パスタフィラータチーズであるといえます。
ゴルゴンゾーラ(青カビチーズ)
世界三大青カビチーズは、イギリスのスティルトン・フランスのロックフォール・イタリアのゴルゴンゾーラです。
ちなみにこのゴルゴンゾーラも、もともとはロンバルディアで生まれています。
ロンバルディアのゴルゴンゾーラ村で作り出されたのが、その起源です。
ただし現在はピエモンテなどでも作られています。
私たちは気軽に「ゴルゴンゾーラ」と呼んでいますが、その本名は「ゴルゴンゾーラ・ディ・ストラッキーノ」です。
「ストラッキーノ」はイタリア語で「疲労」を意味する言葉です。
放牧されて疲れ切った牛がゴルゴンゾーラ村で休んでいるときに乳を搾られ、その乳から作り出されたのがこの「ゴルゴンゾーラ」だったとされています。
ゴルゴンゾーラには、「ゴルゴンゾーラ・ピカンテ」と「ゴルゴンゾーラ・ドルチェ」があります。
前者は強い塩味と刺激の強さが有名で、ゴルゴンゾーラ・ドルチェは穏やかで優しい塩味に仕上がっています。かつて日本では、ゴルゴンゾーラといえばゴルゴンゾーラ・ドルチェといわれるほど、ゴルゴンゾーラ・ドルチェの方が人気がありました。
しかし現在はこのような流れも変わりつつあります。「現在の世の中ではゴルゴンゾーラ・ピカンテの方が人気がある」「いや、ゴルゴンゾーラ・ドルチェの方がまだまだ主流だ」と意見は分かれていますが、少し大きめなスーパーならば、ゴルゴンゾーラ・ピカンテとゴルゴンゾーラ・ドルチェが並べて売られていることが多くなっているのです。
なお、初心者さんが挑戦するのであれば、ゴルゴンゾーラ・ドルチェがおすすすめです。

ブリナータ(白カビチーズ)
ゴルゴンゾーラやマスカルポーネ、パルミジャーノ・レッジャーノに比べると知名度がやや落ちるのが、「ブリナータ」です。羊の乳を使ったチーズであり、専門店などで扱われています。スーパーなどで見かけることは、ほぼないかと思われます。
ブリナータは比較的新しいチーズであり、トスカーナで作られました。ナッツのような香りを強く感じさせるもので、ミルキーなコクがあります。「穏やかなチーズである」と書かれることもありますが、見た目よりは主張が強いチーズだといえるでしょう。
オリーブオイルや白ワインと合わせるとおいしく食べられます。
ペコリーノ・ロマーノ(ハード・セミハードチーズ)
最後に、イタリア最古のチーズである「ペコリーノ・ロマーノ」を取り上げましょう。
ペコリーノ・ロマーノは非常に硬いチーズとして知られています。ちなみにこのチーズは、ローマを作った初代の王ロムルスに関わるエピソードを持っています。ロムルスは捨て子であり狼によって育てられましたが、やがて羊飼いの夫婦に拾われます。この羊飼いの夫婦の元で暮らしていたときに、のちのロムルス王は、彼らが飼っていた羊からペコリーノ・ロマーノを作ったとされているのです。
また、その栄養価の高さから、ローマ軍の大遠征のときには兵士の携行食として採用されていました。
塩味が少し強く出るハード・セミハードチーズですが、「食べた感」がしっかりあります。そのため、お酒のおつまみなどによく使われています。
また、非常に硬くすりおろすことも容易であるため、すりおろしてパスタなどにかけてもよいでしょう。実際に、「お客様の目の前でペコリーノ・ロマーノをすりおろしてみせて、それをパスタ(カルボナーラなど)にかける」という演出をしているイタリア料理屋などもよくみられます。
入手難易度は非常に低く、少し大きめのスーパーなどではパルミジャーノ・レッジャーノと並んで置かれていることが多いといえます。また、チーズの通販を行っているお店では、ほぼ確実にこのペコリーノ・ロマーノと会えるでしょう。
フランスとともにチーズ大国の名前をほしいままにしているイタリアですが、チーズのとらえ方にはやや違いがみられます。それがもっとも表れているのは、「コース料理のときのチーズの扱い方」でしょう。
しかしイタリアのチーズも、フランスのチーズ同様、すばらしいものであることは間違いありません。種類も非常に多く入手難易度もそれほど高くないものが多いため、一度取り寄せて試してみてはいかがでしょうか。



