私たちを楽しませてくれる「チーズ」には数多くの種類がありますが、そのなかでも人気のあるカテゴリーとして「セミハード・ハードチーズ」があります。
セミハードチーズとハードチーズはしばしば一緒になって語られるものですが、ここではあえて「ハードチーズ」のみに焦点を合わせて、
・ハードチーズとは何か
・その特徴
・ハードチーズの代表例
について解説していきます。
ハードチーズとは、セミハードよりももっと水分が少ないチーズ
チーズはその内側に水分を含んでいるものですが、ハードチーズはこの「チーズ内の水分量」が非常に少ないのが特徴です。
ハードチーズは、まずは乳を温め、そこにレンネット(酵素)などを入れてそのまま置いておきます。
その後、ホエイ(乳清)とカード(乳の中のたんぱく質が固まったもの)を分離する工程を経たのち、プレスして作り上げていきます。
また、詳しくは後述しますが、ハードチーズは一定期間以上の熟成を経てから出荷されることになります。
このようにして作られるハードチーズは、「水分量が38パーセント以下であること」が条件とされます。
水分量が38パーセント以下であれば「ハードチーズ」と呼ばれますが、そのなかでもさらに水分量が低い者は「超硬質チーズ」と呼ばれることもあります。
なお、セミハードチーズは「チーズの中の水分量が38パーセント~46パーセント」のものをいいます。
ただ、冒頭で説明したように、ハードチーズとセミハードチーズはしばしば同じカテゴリーに入れられます。そのため、チーズを扱う専門店でも、「セミハードおよびハードチーズ」などのようにして同じくくりで扱われていることが多くあります。
ハードチーズの特徴
さて、ここからはハードチーズの特徴について見ていきましょう。
・重くて大きい
ハードチーズは、ほかの一般的なチーズに比べて、非常に重く、また大きくなりがちです。
たとえばペコリーノ・ロマーノは直径がだいたい30センチ前後ありますし、高さも30センチを超えるものも珍しくなく、重量も20キロ以上あります。
コンテはさらに大きく、直径が55センチ~75センチ程度、高さは10センチ前後、重さも32キロ~45キロ程度あります。
また、なかには130キロと、人間以上の重さを誇るものすらあります。
もっとも、日本の一般家庭でハードチーズを求めようとするとき、「丸のままのハードチーズ」を購入することはほとんどありません。
基本的に歯100グラムあるいは200グラム程度に切り分けたかたちで購入することになるでしょう。
そのため、普段はこの「ハードチーズの大きさと重さ」を意識することはほとんどないと思われます。
熟成期間が長く、長持ちする
ハードチーズは、非常に長持ちするチーズです。水分量が少ないため腐りにくく、適切に保管すれば1年程度は日持ちします。
フレッシュチーズの賞味期限が1週間程度であることと比較すれば、ハードチーズがどれほど長持ちするチーズであるかがわかるでしょう。
ちなみに、セミハードチーズの賞味期限はだいたい半年程度とされています。
また、表面にカビが生えてしまったとしても、そのカビが表面だけにとどまっているのであれば、そこをそぎ落とせば食べることができます。
ハードチーズは、ある程度の熟成期間を経てから売り出されます。
最低でも半年程度の熟成期間を経てからリリースされますが、中には1年以上もの熟成期間を経てから打ち出されるものもあります。
熟成期間の違いによって同じチーズでも表情を変えますから、お気に入りのハードチーズを見つけられたら「熟成年月ごとの味の違い」などを知るために食べ比べてもよいでしょう。
多種多様な食べ方を楽しめる
ハードチーズは非常に濃厚でコクのある味わいを持っているものが多いため、そのままスライスしてお酒のおつまみやおやつとして出してもおいしく食べられます(なお、余談ですがハードチーズは一般家庭の包丁でも簡単にスライスできるため、その意味でも扱いやすいチーズだといえます)。
また、それ以外にも、「削ってサラダやパスタにかけて食べる」「「オーブン料理に入れて楽しむ」などの楽しみ方もできます。
非常に強い風味を持つハードチーズは、それ自体が「調味料」としての役割さえ持つものです。
熱を加えてもその味わいは衰えないため、積極的に料理に採用していくとよいでしょう。
なお、お店によっては、「目の前でハードチーズをすりおろして、料理にかける」などの演出をしているところも多くみられます。
ハードチーズの代表例
「ハードチーズとは何か」「ハードチーズの特徴とは」を見てきたところで、ここからは代表的なハードチーズやちょっと面白いハードチーズについて紹介していきます。
ペコリーノ・ロマーノ
チーズ大国イタリアのチーズの歴史は非常に古いものですが、そのイタリアチーズ史のなかにおいて「最古のチーズ」とされているのが、この「ペコリーノ・ロマーノ」です。
このペコリーノ・ロマーノは、ローマ帝国を建てたと言われているロムルスによって作られ始めたものだとも言われています。
ハードチーズらしい保存性の高さを誇るうえ、栄養に富むこのペコリーノ・ロマーノは、ローマ帝国軍人の携行食として使われてきました。
塩味をやや強く感じさせるペコリーノ・ロマーノですが、近年ではもう少し「とっつきやすい」ペコリーノ・ロマーノも出ています。
なお、ペコリーノ・ロマーノを使った代表的な料理として、日本でも非常になじみ深い「カルボナーラ」があります。
そのため、「特に意識せずにペコリーノ・ロマーノを食べていた」という人もきっと多いこととでしょう。
エダム
「形が特徴的なチーズ」といえば多くの人がシェーブルチーズを思い浮かべますが、ハードチーズのなかにも個性的な外見を持つものがあります。
それが、「エダム」です。
エダムはオランダ生まれのチーズであり、真っ赤な赤いワックス(黄色のワックスのこともある)で覆われています。
一目見てエダムだとわかるのですが、その外見ゆえに「赤玉」と呼ばれることもあります。
ちなみにこのワックス加工は防カビのために施されているものであるため、現地オランダでは裸のままで売られているのだとか。
比較的カロリーが低く、柔らかい味を持ちます。クセも少なく非常に食べやすいチーズであるため、ナチュラルチーズに慣れていない人でも食べやすいといえます。
なお今回はエダムを「ハードチーズ」として紹介しましたが、セミハードチーズに分類している本もあります。
コンテ
チーズの年間消費量NO1の国フランスで、もっとも多くの人に愛されているといわれているのがこの「コンテ」です。フランス国民の誇りでもあるこのコンテは、ジュラ山脈で作られています。
ナッツにも似た好みの香りとほろにがさがコンテの特徴であり、栗の実を食べているようなほっくりとした食感を味わえます。
ワインによく合うチーズですが、ビールとも非常に相性のよいものです。また、人によってはチョコレートと合わせることもあります。
このまま食べてもおいしいチーズですが、オニオイングラタンスープと合わせても非常においしく食べられるでしょう。崩れにくく扱いやすいチーズなので、1つ冷蔵庫に入れておくことをおすすめします。
グラナ・パダーノ
今回は取り上げませんでしたが、ハードチーズの王者といえば、やはり「パルミジャーノ・レッジャーノ」です(パルミジャーノ・レッジャーノの記事はこちらをどうぞ)。
グラナ・パダーノは、そのパルミジャーノ・レッジャーノと非常によく似た特性を持つものです。
塩味を感じさせるチーズでありながら食べやすく、どのようなお酒にもよく合います。また、リゾットやグラタンに入れてもよいでしょう。
売っているお店にもよりますが、基本的にはグラナ・パダーノはパルミジャーノ・レッジャーノよりも安価で取引されます。
そのため、日常使いとして考えるのであれば、グラナ・パダーノの方がパルミジャーノ・レッジャーノよりも扱いやすいかもしれません。
もちろんこの2つを食べ比べてみて、「似ていると言われているがどこが違うのか」「自分の好みはどちらなのか」を模索していくのも、なかなか面白いものです。
カチョ ディ ボスコ
イタリアには、「ペコリーノ・トスカーノ」と呼ばれるチーズがあります。羊の乳を脱脂せずに作ったこのチーズは、非常に深いコクと味わいを持つものとして知られています。
ペコリーノ・トスカーノはそのままで食べても十二分においしいチーズですが、それをベースとして作られたチーズもあります。
それが、「カチョ ディ ボスコ」です。
カチョ ディ ボスコは、ペコリーノ・トスカーノをベースとして、そこにトリュフを入れたチーズです。
トリュフをチーズに刻みいれるという手法はそれほど珍しくないものですが、トリュフから立ち上る香りがチーズに新たなうまみと楽しさを付け加えてくれます。
カチョ ディ ボスコの場合、トリュフの香りがかなり強いといえます。特に開封したての段階のときは、その香りを強く感じられることでしょう。
また、ペコリーノ・トスカーノは羊乳を使ったチーズのなかでは比較的クセが少ないといわれていますがそれでも、トリュフを刻みいれたカチョ ディ ボスコでも羊乳独特のクセは感じられます。
羊乳の香りとトリュフの香り、2つの香りが鮮やかに出るカチョ ディ ボスコは、「香りを楽しむチーズ」を探している人におすすめです。
ハードチーズは、一般家庭の冷蔵庫のなかでも保管しやすく、非常に扱いやすいものです。複数の種類を買ってきても傷む前に食べきれるかと思われるので、ぜひ食べてみてくださいね。