「ペコリーノ・ロマーノ」と聞いて「あっ、あのチーズだ!」と思い浮かぶ人は、かなりのチーズ好きかイタリア料理通の方だと思います。
それくらい日本では知名度が低いペコリーノ・ロマーノですが、本場イタリアでは「パルミジャーノ・レッジャーノ」と人気を二分するほどメジャーなチーズです。
タイプや味わいなどが似ているためライバル関係にあり、両者の違いを比較して「この料理にはこちら」などと、食べ分ける人も珍しくありません。
いずれ日本でも、ペコリーノ・ロマーノとパルミジャーノ・レッジャーノを好みに合わせて使い分けることが当たり前になるのではないでしょうか。
そこで今回は、両者の違いが明確になるように
・ペコリーノ・ロマーノとは?
・パルミジャーノ・レッジャーノとは?
・ペコリーノ・ロマーノとパルミジャーノ・レッジャーノの違い
・ペコリーノ・ロマーノのおすすめの楽しみ方
・パルミジャーノ・レッジャーノのおすすめの楽しみ方
という内容でお伝えしていきます。
この記事を読んでいただくと、チーズ専門店などで2つのチーズを見かけたときに違いがわかり、ふさわしいほうを選べるようになりますので、ぜひ最後までお読みください。
ペコリーノ・ロマーノはどんなチーズ?
ペコリーノ・ロマーノとは、羊乳を原料とするハードタイプのチーズで、ローマ帝国時代の紀元前1世紀ころに作られ始め、「イタリア最古のチーズ」とされています。ローマ軍兵士の携行食として普及した歴史があるため、保存性を高めるために塩分が高めなのが特徴です。
もっとも、近年の健康意識の高まりに合わせて、塩分は徐々に控えめになってきているようです。
ちなみに、ハードタイプのチーズとは、圧搾によってチーズ内の水分を取り除いているものであり、長期間の熟成が可能なものです。
ペコリーノとは「羊乳から作られている」という意味で、ペコリーノ・ロマーノで「羊乳から作られているローマのチーズ」を表しています。
とはいえ、現在の主産地はサルディーニャ州です。
環境に恵まれ、土地が広いサルデーニャ島に生産拠点の多くが移動し、結果的にそのことが生産量を増やす要因となりました。なお、イタリアで作られている羊乳のチーズには、他に「ペコリーノ・トスカーナ」や「ペコリーノ・サルド」などがあります。
ペコリーノ・ロマーノは、羊乳、乳酸菌、子羊のレンネット(凝乳酵素)がおもな原料です。
イタリアのDOPでラツィオ州とサルデーニャ州、トスカーナ州が産地に指定されており、認定を受けたものしか「ペコリーノ・ロマーノ」を名乗ることはできません。
DOPとは、「デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ(保護指定原産地表示)」の略表記で、イタリアで原産地や製法などを守って製造されたものに限ってつけられる保証です。
製造される「ペコリーノ・ロマーノ」は、直径25~35cm、高さ25~40cm、重量25kg以上の円柱型をしています。
ただし、この大きさで販売されることは少なく、通常は適度な大きさにカットされています。
チーズおろし器などですりおろして「カチョエペペ」や「カルボナーラ」、「アマトリチャーナ」などのパスタ料理に使われる他、塩気が多いことから塩の代わりの調味料として料理に加えられることも多いです。
パルミジャーノ・レッジャーノはどんなチーズ?
パルミジャーノ・レッジャーノは、日本でも知名度の高いチーズです。チーズ専門店は当然として、スーパーの多くでも取り扱いされています。
牛乳を原料とするハードタイプのチーズで、「イタリアチーズの王様」と呼ばれ親しまれています。
パルミジャーノ・レッジャーノは、イタリア北部のエミリア・ロマーニャ州とロンバルディア州の一部のみで作られたものしか名乗れません。
チーズ名は、この地域内の「パルマ」と「レッジョ・エミリア」という地名からきています。
DOPで定められた様々な規則に従って作られ、国から管理を任せられている「パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会」の品質検査を通過したものだけが、パルミジャーノ・レッジャーノとして認められます。
なお、スーパーなどで「パルメザンチーズ」として販売されている粉チーズのほとんどは、このパルミジャーノ・レッジャーノとは違います。
一般的には、本物をマネて作られたものであり、あくまでも「パルミジャーノ風チーズ」というものなので気をつけてください。
パルミジャーノ・レッジャーノは、搾乳から一晩置いた牛乳と、当日の朝に搾った牛乳を混ぜ合わせて作り、製造できるのは1日に1回と決められています。
また製造後は1年間以上の熟成が義務付けられているため、生産量に限りがあります。そのため、ほとんどがペコリーノ・ロマーノと比べると高価です。
製造される「パルミジャーノ・レッジャーノ」は、直径35~45cm、高さ18~24cm、重量24kg以上の太鼓型をしています。
ペコリーノ・ロマーノ同様、適度な大きさに切り分けられたものが販売されています。
粉状にしたものを料理に使うことが多いのですが、そのまま食べるのも人気がある楽しみ方です。
イタリアのチーズについて、もっと詳しくお知りになりたかったらこちらの記事もお読みください。
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パルミジャーノ・レッジャーノの作り方やおすすめの食べ方などについて、詳しくお知りになりたかったらこちらの記事もお読みください。
ペコリーノ・ロマーノとパルミジャーノ・レッジャーノの違いを比較
同じようにDOPを取得しているチーズではありますが、ペコリーノ・ロマーノとパルミジャーノ・レッジャーノにはいろいろな違いもあります。
イタリアでは、比較されることが多い両者ですが、どのような違いがあるのか個別に見てみましょう。
乳種
ペコリーノ・ロマーノ
原料となるのは、100%羊乳です。主な産地であるサルディーニャ島は牧羊が盛んであり、飼料となる牧草にも恵まれています。生の牧草が持つ爽やかな香りが原料の乳に残るため、ペコリーノ・ロマーノ独特の風味が生まれます。
パルミジャーノ・レッジャーノ
原料は無殺菌の牛乳です。前日から絞り置きして酸味の強くなった部分脱脂乳と当日の朝に絞った新鮮な乳を混ぜて作ります。これらの特徴ある牛乳を原料とするために、複雑な味わいとなっています。
産地
ペコリーノ・ロマーノ
名前が示すとおり、もともとはローマ地方で多く生産されていたペコリーノ・ロマーノですが、現在は生産量の95%以上がサルディーニャ島で作られています。
他にDOPで認められているのは、ローマがあるラツィオ州とトスカーナ州のみですが、これらで生産されるのはごくわずかです。
パルミジャーノ・レッジャーノ
イタリア北部のエミリア・ロマーニャ州とロンバルディア州にかけての地域内、パルマ、レッジョ・エミリア、ボローニャ、モデナ、マントヴァの各県が、DOPで認められている産地です。
熟成期間
ペコリーノ・ロマーノ
最低5か月間の熟成が義務付けられています。長期熟成も可能ではありますが、一般的には熟成期間1年以内のものが出回っています。
パルミジャーノ・レッジャーノ
最低12か月間の熟成が必要です。しかし、熟成されたもののほうが好まれる傾向にあるため、実際は2年以上熟成されたものが多く出回っています。
熟成期間が長くなるほど茶色みが濃くなっていき、表面にある結晶がしっかりしてくるので、見た目で判断しやすいでしょう。
味わい
ペコリーノ・ロマーノ
かつては兵士の携行食として用いられていたので、保存性を高めるために表面に塩をまぶしながら作られていました。
その名残で、羊乳独特のミルキーな風味がありながらも強めの塩分が特徴です。
パルミジャーノ・レッジャーノと比べると一般的に熟成期間は短く、そのため味わいはスッキリした印象です。
パルミジャーノ・レッジャーノ
熟成からくる深く濃厚なミルクのうま味とナッツのような香りが特徴です。
熟成期間が長くなるほど、うま味成分のアミノ酸が凝縮しジャリっとした食感の結晶が多くなります。
ペコリーノ・ロマーノ | パルミジャーノ・レッジャーノ | |
乳種 | 羊乳(殺菌乳、全乳) | 牛乳(無殺菌、部分脱脂) |
産地 | サルディーニャ州、ラツィオ州、トスカーナ州 | エミリア・ロマーニャ州、ロンバルディア州 |
最低熟成期間 | 5か月 | 12か月 |
固形分中乳脂肪 | 最低36% | 最低32% |
味わい | 塩分が強めながらも、羊乳の爽やかかつミルキーな風味が特徴 | 深く濃厚なミルクのうま味とジャリっとしたアミノ酸の結晶の食感が特徴 |
ペコリーノ・ロマーノのおすすめの楽しみ方
ペコリーノ・ロマーノは、そのまま食べることもできますが、他のチーズよりも塩分が多く塩辛さを強く感じるため、一般的にはすりおろしたりして料理にかけて食べられることが多いです。
日本で人気のパスタであるカルボナーラには、パルミジャーノ・レッジャーノを使うのが日本での主流ですが、イタリアでは、ペコリーノ・ロマーノをかけるのが一般的です。
同じパスタで、ローマ発祥でありカルボナーラの原型といわれているカチョエ・ぺぺも、ペコリーノ・ロマーノを使用するのが正統とされています。
また、空豆と熟成期間の短いペコリーノ・ロマーノチーズとを組み合わせるのも、イタリアの定番料理となっています。
他にもリゾットやサラダをはじめ多くの料理と合わせられますが、塩分が強いため使う量には注意が必要です。
ペコリーノ・ロマーノは、パルミジャーノ・レッジャーノと比べて熟成期間が短いために、素朴な味わいとなっています。
料理に用いるときの使い分け方は、シンプルな料理や料理の味わいを活かしたいときはペコリーノ・ロマーノを、チーズによってうま味を多くしたり複雑な味わいにしたりしたいときはパルミジャーノ・レッジャーノを、という具合にするとよいでしょう。
ペコリーノ・ロマーノを保存する際は、固形のまま保存するようにしましょう。
すりおろしたりスライスしたりしてしまうと、保存性が悪くなるのに加えて風味が飛んでしまいます。
粉状にしたりカットしたりするのは必要な分だけにしておいてください。ラップで包み、ジッパー付きの袋に入れて、冷蔵庫のチルド室に入れるとよいでしょう。
表面に水分が付いているようであれば、ラップで包む前に、カビ予防のためにしっかりとふき取っておいてください。
チーズにカビが生えてしまった場合は、食べないようにしてください。
パルミジャーノ・レッジャーノのおすすめの楽しみ方
パルミジャーノ・レッジャーノは、ワインのお供としてそのまま食べるのもおすすめです。包丁などでスライスするのもよいのですが、専用のアーモンド型のカッターで割るように切り分けると表面がゴツゴツした状態になり、食感と共に複雑な味わいもより楽しめるようになります。
バルサミコ酢をかけて食べるのが本場の食べ方で、パルミジャーノ・レッジャーノの複雑な味わいを堪能するのにピッタリです。
熟成期間が短いものは軽やかなワインを、熟成期間が長いものにはしっかり重いワインを合わせるととても良い相性を示すでしょう。
もちろん、おろして料理にかけたりするのもおすすめです。パスタだけでなく、リゾットやメイン料理などに広く使え、料理にうま味を与えるとともに味わい深く変化させます。
ただし、ペコリーノ・ロマーノと違い、パルミジャーノ・レッジャーノは個性が強いので、元の料理の個性を消してしまわないように気をつけてください。
パルミジャーノ・レッジャーノも、ペコリーノ・ロマーノと同じように保存しましょう。
使う分以外は固形のままにしておき、水分を残さず、空気に触れないように冷蔵庫のチルド室にしまってください。
パルミジャーノ・レッジャーノの保存方法について、もっと詳しくお知りになりたかったらこちらの記事もお読みください。
まとめ
今回は、イタリアでは良く知られているものの日本では知名度が今一つのペコリーノ・ロマーノと、日本でも良く知られたパルミジャーノ・レッジャーノの違いを見てきました。
両者とも同じハードタイプであるものの細かな違いがあり、特徴や楽しみ方が異なっていました。
しかし、どちらも料理に使われることが多く、個性の違いを活かして使い方を変えることで料理のレパートリーを広げられます。
「イタリア最古のチーズ」であるペコリーノ・ロマーノと「イタリアチーズの王様」であるパルミジャーノ・レッジャーノ。ライバル同士ではありますが、優劣をつけることなくどちらも楽しんでいきましょう。