チーズはその種類によって味が大きく異なりますが、異なるのは味だけではありません。外見も非常に個性豊かです。
そしてその個性を出す要因のひとつとして、「ワックス」があります。
今回は「チーズとワックス」を取り上げ、
・そもそもチーズのワックスは何のために貼られているか
・チーズのワックスは食べられるか
・ワックスが貼られているチーズの代表例
について解説していきます。
ワックスは、チーズを守るために貼られています
チーズのなかには、「ワックス」が貼られているものがあります。
このワックスはチーズの外見を個性的なものにしてくれるものではありますが、ワックスは「チーズの保護」を目的として貼られているものであり、個性的な外見を作ることを第一の目的として貼られたものではありません。
ご存じの通り、ナチュラルチーズは日々変化していくものです。
この「変化」がチーズの味を作るわけですが、あまりにも水分の蒸発量が多すぎたり、本来はカビを生やすべきではないチーズにカビが生えたりしてしまうと、味が大きく損なわれてしまいます。
このような「望ましくない変化」を防ぐために、ワックスが貼られるようになりました。
チーズにワックスを貼ることで、過剰な水分の蒸発によるチーズの乾燥を防いだり、雑菌の繁殖によるカビの発生を防いだりすることができるわけです。
ちなみにチーズのワックスは、ある程度の通気性があります。また、ワックスを貼ったチーズの場合、ワックスと接している面がほかの部分よりも硬くなります。
ワックスを使ったチーズは、チーズの名産地であるフランスやイタリアにはほとんどみられません。しかしところ変わって、オランダやイギリスなどではこの「ワックスつきチーズ」がよく生産されています。なおオーストラリアでは特にこのワックスつきのチーズがよく生産されているといわれています。
チーズの品質や種類によって貼られているワックスの色が違いますから、このような観点からチーズのワックスを見ていくのも面白いものです。
チーズのワックスは食べられません
チーズに詳しくない人のなかには、「うっかり間違って、チーズのワックスをチーズごと食べちゃった……!」「チーズにワックスが貼られていることを知らずに、そのままチーズと一緒に飲み込んでしまった」という経験をしたことのあるケースもみられるようです。
チーズのワックスは、食べ物ではありません。ロウなどが原材料として使われているため、口に運ぶことは避けるべきです。食味も大きくそがれますし、そもそも食べ物としての扱いがなされていないものです。
ただ「チーズのワックスを1カケラ食べちゃった」などのような場合は、それほど心配しすぎる必要はありません。チーズのワックスを少し飲みこんでしまったからといって、それが健康に被害を及ぼす可能性は極めて低いからです。
そのため、過剰に心配する必要はないでしょう。
ちなみにチーズのワックスのはがし方は、それほど難しくはありません。包丁やナイフを使えばきれいにはがすことができます。ただ、一番外側のワックスを剥いでも、チーズの表面に薄いワックスが貼られていることもあります。この場合は、当然この「内側のワックス」もきれいに剥がすようにしてください。
なお、「チーズのワックス」と「チーズの外皮」は、柔らかい(弾力のある)チーズの表面を覆っているものであるという共通点があります。しかしチーズのワックスとチーズの外皮は、明確に区別されるべきものです。
チーズのワックスはロウなどの「食材ではないもの」で出来ていますが、「チーズの外皮」はチーズ由来のものです。そのため、チーズの外皮は食べてもまったく問題がありません。
なおチーズの外皮の硬さは、チーズの種類によって異なります。
もともと水分量が少ないチーズであるハードチーズなどの外皮は、非常に硬くなる傾向にあります。「ハード」チーズであるチーズ本体よりもさらに硬い外皮となるため、食べてもそれほどおいしくはありません。
そのため、基本的には食べることは避けるべきでしょう。実際専門家のなかにも、「ハードチーズの外皮は絶対に食べない」と断言している人もいます。
もしどうしても食べたい! ということであれば、汚れがついている可能性の高い表面を削ったうえで、チーズのすりおろし器を使って粉チーズにするとよいでしょう。粉チーズにして煮込み料理などに入れて加熱すれば、食べられるようになります。
白カビチーズの場合は、外皮自体が非常に柔らかいので、そのまま食べることができます。適切に保存しているのであれば包丁で苦もなく切り分けることができますし、そもそも白カビチーズは外皮を外して食べるのが困難なチーズでもあります。
そのため、一緒に食べてしまいましょう。
なおナチュラルチーズのなかでも個性派で知られるウォッシュチーズの外皮は、食べることをおすすめします。ウォッシュチーズの外皮は、チーズ本体に比べてもかなりうまみが強く、その個性をよく反映しているからです。
なおウォッシュチーズと同じように個性派で知られるシェーブルチーズの外皮も柔らかいため、基本的にはこれも食べることができます。しかし熟成と乾燥が非常に進んだシェーブルチーズの場合は外皮が硬くなりますから、食べにくさを感じるようになるかもしれません。
代表的なワックスつきチーズとその味わい
ここまで、「そもそもなぜチーズにワックスが貼られているのか」「チーズのワックスは食べられるのかどうか」「チーズのワックスと同じようにチーズの表面を覆っている『外皮』は食べられるのか」について解説してきました。
ここからは、「ワックスが使われているチーズの代表例と、その味わい」について解説していきます。
・エダムチーズ
「ワックスを使ったチーズ」の代名詞ともいえるのが、この「エダムチーズ(「エダム」とも呼ばれる。ここでは「エダムチーズ」の表記に統一)」です。
すでに述べた通り、オランダなどではワックスを使ったチーズがよく販売されています。このエダムチーズもまた、オランダで生まれたチーズです。
エダムチーズは14世紀ごろに誕生したチーズであると考えられています。より正確に言うのであれば、「14世紀ごろに名付けられたチーズである」となるでしょう。オランダの港町であったエダムは数多くのチーズを輸出していたのですが、それらのチーズが14世紀ごろに「エダムチーズ」という名前で呼ばれるようになったわけです。
エダムチーズは、非常に特徴的な外見をしています。ボールのような見事な丸い形で。その上に真っ赤なワックスを貼りめぐらせているのです。その特徴的な外見から、日本では「赤玉」と呼ばれてきました。
ただ意外に思われるかもしれませんが、この処理がなされているのは輸出用のエダムチーズに限られます。国内消費用のエダムチーズにはこの処理はされていません。また「赤玉」の名前で知られていますが、実は黄色のワックスが使われたものもあります。
非常にマイルドで食べやすく、くせがないのが特徴です。
チーズに慣れていない人でも食べられるチーズであり、朝食などにぴったりのチーズでもあります。切り分けるとりんごのような外見になるので、これを朝食のプレートに添えて出すのも面白いものです。
・ゴーダチーズ
日本人にもよく親しまれている「ゴーダチーズ(「ゴーダ」とも呼ばれる。ここでは「ゴーダチーズ」の表記に統一)」も、エダムチーズと同じく、オランダで誕生したチーズです。
その歴史は12世紀から始まると言われており、生まれ故郷であるオランダでも非常によく消費されています。
熟成が進んでいないときにはさっぱりとした味が楽しめますが、熟成が進むと強いコクが出てきます。しかし味わいはそれほど強くなく、塩分も控えめです。エダムチーズに比べるとより硬く、よりうまみが強いチーズではありますが、香りもくせも弱く、チーズ初心者さんでも食べられる味です。
ゴーダチーズのなかには、「リンドレス」と呼ばれる種類があります。これは「川奈氏」という意味であり、ワックスを採用せずに作った種類をいいます。このリンドレスタイプも日本でよく出回っているからか、「ゴーダチーズとワックス」はなかなか結びつかないかもしれません。
しかし実はゴーダチーズのなかには、ワックスが貼られたものもあります。専門家によっては、「ワックスがあるゴーダチーズこそが、ゴーダチーズの本来のかたちである」という見解を持っている人もいます。
なおここではこの2つを代表例として紹介しましたが、チェダーチーズの一部にもワックスを使用したものがあります。
普段は意識することのないであろう「チーズのワックス」ですが、これに注目してみるとチーズの新しい表情が見られるかもしれませんね。